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東京地方裁判所 昭和38年(ヨ)2006号 決定 1963年3月20日

決   定

当事者の表示 別紙当事者目録記載の通り。

右当事者間の昭和三八年(ヨ)第二〇〇六号総会開催禁止仮処分申請事件につき、当裁判所は次の通り決定する。

主文

本件申請を却下する。

申請費用は債権者等の負担とする。

理由

一、債権者等代理人は、「債務者会社が昭和三八年三月八日附で招集した同年同月二三日午前十時から東京都千代田区丸の内三の一四東京商工会議所ビル四階会議室において開催する別紙表示の会議事項のための債務者会社の臨時株主総会はこれを停止する」との裁判を求めた。その主張する申請の理由は別紙仮処分申請書に記載の通りである。

二、よつて按ずるに、債権者等がその主張のように債務者会社の株主で、しかも従業員であること、債権者等主張の日・時にその主張の場所で債務者会社の臨時株主総会が開催される旨の招集通知が債務者会社代表取締役杉山武義から各株主に対してなされたこと、その招集通知によれば、会議の目的事項として第一号議案、当会社解散に関する件とあり、第二号議案、当会社解散にともない清算人一名選任の件とあることが疎明せられている。

債権者等は債務者会社の取締役会社が前記のような会社解散を議題とする臨時株主総会の開催を決議したのは債権者等が加入している労働組合を嫌悪し、その組織の破壊と債権等を含む組合員の解雇を意図するものであるから前記総会開催の議題を採択した取締役会の決議は憲法第二八条労働組合法第七条第一、三号に該当する不当労働行為であつて民法第九〇条にいわゆる公序良俗違反の行為であり、憲法第一二条、民法第一条第三項に違反する企業廃止の自由の濫用であるから無効である旨主張する。

しかしながら会社の解散は法人格の消滅を目的とする行為であつて、通常これにより企業の廃止をみるに至るものであるが、会社の設立について自由設立主義を採り、憲法においても職業選択の自由を保障していることに鑑みるならば、会社にも企業廃止の自由が与えられているものというに妨げなく、従つて通常企業廃止を結果する解散が、その動機において労働組合の組織的な力を嫌忌するの余りなされたとするも、右解散自体を目して不当労働行為となすべきではない。

けだし、不当労働行為という制度は企業の存続を前提とし、企業内における組合活動の自由を確保して企業における労使対等の原則を維持しようとするところにその趣旨があるところ、解散は通常企業そのものの消滅、従つて労使対立関係の基盤の消滅を結果するものであるからである。

債権者等は本件において、解散を議題とする株主総会の招集を採決した取締役会の決議を論難するのであるが右のように労働組合の組織力を嫌忌するの余りなされた解散でさえ、解散自体は不当労働行為を構成しないものと解する以上取締役会が解散を株主総会に諮ろうとするこは仮りに債権者等所論のような動機からなされたとしても、それは決して不当労働行為とはいい難い。

加うるに解散自体は株主総会の決するところであり、いわんや現実に開かれる株主総会において、右解散の議題が果して可決されるか否かは将来未知のことに属するにおいては猶更のことである。従つて債権者等の不当労働行為に基く主張はその理由がない。また、申請理由によつても本件取締役会の決議が債権者等主張のように、公序良俗違反、企業廃止の自由の濫用ないしは権利の濫用に該るものとは解し難い。

してみると債権者等の本件仮処分申請は理由がないことに帰するからこれを却下することにし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文の通り決定する。

昭和三八年三月二〇日

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 奥   輝 雄

裁判官 宍 戸 達 徳

当事者目録

東京都練馬区東大泉町六三〇番地

債権者渡辺勇二(ほか六名)

東京都新宿区四谷一丁目二番地黒田法律事務所

右債権者七名代理人弁護士渡辺正雄(ほか五名)

東京都新宿区柏木三丁目三四八番地

債務者朝日日産モーター株式会社

右代表者代表取締役杉山武義

会議の目的事項

第一号議案 当会社解散に関する件

第二号議案 当会社解散に伴い清算人一名選任の件

仮処分命令申請(省略)

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